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英国家具の歴史探訪 ~ジャコビアンからヴィクトリアンまでの美の系譜~
~目次~
1.プロローグ:英国家具の歴史を巡る時の流れ 1-1. 中世からルネサンス:宮廷の贅沢と職人技の結晶 1-2. 産業革命時代:量産とデザインの変革 1-3. ヴィクトリア朝時代:繁栄と豪奢なデザイン 1-4. 現代への継承:伝統とモダンな融合 2.英国家具の様式紹介:多彩なクラシックデザイン 2-1. 厳粛な雰囲気:ゴシック様式 2-2. 尖塔とアーチ:チューダー様式 2-3. 高貴な風格:ジャコビアン様式 2-4. ウィリアム&メアリー様式 2-5. 女王の気品:クイーンアン様式 2-6. 名匠の芸術:チッペンデール様式 2-7. 粋な時代:ジョージアン様式 2-8. 繁栄の象徴:ヴィクトリアン様式 2-9. アーツ・アンド・クラフツ運動 3.エピローグ:英国家具への招待
1.プロローグ:英国家具の歴史を巡る時の流れ
英国家具は長い年月にわたって様々な潮流や時代背景の影響を受け、独自の進化を遂げてきました。ここでは英国家具の歴史を時系列で紐解き、優雅で洗練された姿がどのように形成されたのかを探っていきます。
1-1.中世からルネサンス:宮廷の贅沢と職人技の結晶
英国家具の歴史は中世から始まります。当初は王室や貴族の宮廷で使用されることが主で、木材や金属を贅沢に使用した彫刻が特徴的でした。職人たちは優れた技術を駆使して、優雅で耐久性のある家具を生み出しました。
1-2.産業革命時代:量産とデザインの変革
18世紀に入ると、産業革命の波が英国を席巻します。家具の生産が量産化され、一般家庭にも英国家具が広く普及しました。
しかし、同時に職人たちの伝統的なスタイルも堅持され、デザインの変革が進みました。
1-3.ヴィクトリア朝時代:繁栄と豪奢なデザイン
19世紀中頃のヴィクトリア朝時代は、英国家具において繁栄の時代です。産業の進展がもたらした多様な素材と技法が取り入れられ、贅沢な装飾が施された家具が誕生しました。この時期の英国家具は、社会の繁栄と個性的なデザインが見事に融合した時代を象徴しています。
1-4.現代への継承:伝統とモダンな融合
現代においても英国家具は、歴史的な価値を大切にしながらモダンなデザインとの融合を模索しています。職人の手仕事や伝統的な技法が尊重され、新しい素材やスタイルが取り入れられています。その結果、英国家具は時代を超えて愛され、クラシックスタイルのインテリアにおいて重要な役割を果たしています。英国家具の歴史は、単なる家具の変遷だけでなく、社会や文化の変動をも反映しています。その多様性と美しさは、クラシックなインテリアを愛する人々にとって永遠の魅力となっています。
2.英国家具の様式紹介:多彩なクラシックデザイン
2-1.厳粛な雰囲気:ゴシック様式
15世紀から始まり、教会で使われた聖堂建築のデザインを家具に取り入れたもので、彩り豊かなステンドグラスや幾何学模様のアーチ型形状が特徴的です。
2-2.繊細な彫刻:チューダー様式
15世紀末~16世紀半ばにヘンリー7世が治めた時代に広まった様式でゴシック様式の家具にチューダー家の紋章を装飾として用いたもので、バラのモチーフや浅浮き彫りの彫刻が見られます。 この薔薇のモチーフはヘンリー7世が薔薇戦争で統合させた「ランカスター家」の赤薔薇と、「ヨーク家」の白薔薇を合わせてつくった「チューダーローズ」と呼ばれるそうです。
2-3.高貴な風格:ジャコビアン様式
ジャコビアン様式とは、17世紀初頭のイギリスルネサンス期に開花した様式で、イングランド王ジェームズ1世(在位:1603年-1625年)のラテン名「ジャコビアン」に由来しています。
ジャコビアン様式の家具は、主にオークを使用しており、直線的で堅牢な印象を与え、ねじり棒や挽き物の精巧な細工が多く採用されています。
中世ゴシック様式の垂直線を際立たせる要素と、古典古代の規則的な構成の装飾表現を織り交ぜているのが特徴です。
2-4.ウィリアム&メアリー様式
17世紀後半のイギリスにおける王位継承者であるウィリアム3世とメアリー2世は、1689年にイングランド、スコットランド、アイルランドの共同君主として即位しました。この時代は「ウィリアム&メアリーの時代」と呼ばれ、英国の憲政史上の重要な時期でした。この時代の家具様式は、オランダやフランスからのバロック様式の影響を受け、繊細な彫刻や曲線的なデザインが特徴です。家具ではチェスターフィールドソファ☞詳しくはこちらがあげられます。座面が広くて背もたれが高く、革で覆われた豪華なソファです。この家具は、ウィリアム&メアリー時代からジョージアン時代にかけて人気を博しました。
2-5.女王の気品:クイーンアン様式
クイーンアン様式は、18世紀初頭にアン女王(在位:1702年-1714年)の統治時代に栄えた様式です。
女性らしい気品と優雅さが特徴で、独自のデザインが生み出され、クイーンアン様式の家具は、優美な曲線が特徴の「ロココ様式」がベースとなっていますが、ロココ様式よりも軽快な印象を与えます。
カブリオールレッグ(猫足)や彫刻、透かし彫りなどがみられ、曲線美を強調したデザインと細やかな彫刻が見事に融合し、女性らしい繊細さが感じられ、家具全体から流れる気品が時代のトレンドを象徴しています。
2-6.名匠の芸術:チッペンデール様式
チッペンデール様式は、18世紀中頃に活躍した家具作家トーマス・チッペンデール(1718年-1779年)が手掛けた家具様式の事です。富裕層向けの宮廷様式の家具を市民の生活環境に合わせて機能的かつ洗練されたスタイルに転換させました。
トーマス・チッペンデールは、家具制作においてはカーテンや壁の色など、インテリア全体を考慮したデザイン手法を導入し、18世紀中頃に広く流行しました。
チッペンデール様式はクイーンアン様式からの発展を経て、ロココ様式を基調にシノワズリ(中国趣味)やゴシックなど、異なる様式の要素を取り入れたデザインが特徴です。 この様式の特徴的な家具として、背もたれにリボンの装飾が絡む華麗な「リボンバックチェア」があります。
2-7.粋な時代:ジョージアン様式
ジョージアン様式は、1714年から1830年にかけてのジョージ1世から4世の治世に普及しました。
バロック様式やロココ様式と近く、シンメトリー(左右対称)を基本としたデザインが特徴です。
オーダー(柱)、ピラスター(付け柱)、ペディメント(三角形の切妻壁)など、古典的なルネサンス期の装飾要素が取り入れられています。
ジョージアン様式の家具は、実用性よりも装飾性に重点が置かれており、
対称性、精緻な彫刻、エレガントなデザインが特徴で、マホガニーやシェリーウッドなどの高級木材が使用されました。
2-8.繁栄の象徴:ヴィクトリアン様式
ヴィクトリアン様式は、1837年から1901年までのヴィクトリア女王時代のイギリスの美術・工芸様式です。
ゴシック様式を主体として過去の様式を折衷的に取り入れ、伝統的な石や煉瓦に加えて、新しい工業的材料として鉄・コンクリート・ガラスを積極的に採用しました。
ヴィクトリアン様式の家具は、ゴシック様式の要素である尖ったアーチや尖塔、精巧な彫刻が特徴で、豪華な装飾や彫刻、多様な模様が目立ち、細部にまで細心の注意が払われました。
ヴィクトリアン様式の家具は、一般的にはダークな木材(ダークウッド)で製作され、重厚な印象を醸し出しています。
2-9.アーツ・アンド・クラフツ運動
19世紀末から20世紀初頭にかけてイギリスを中心に起こった美術・工芸の運動です。この運動は、産業革命によってもたらされた大量生産や機械化に対抗し、手工業の伝統的な技術や美的価値を再評価しようとするもので、デザイナーたちは、自然をモチーフとしたデザインを好みました。植物の模様や動物の図柄、自然の風景などが多く用いられ、独特の美しさと繊細さを持っています。この運動の中心的な人物には、ウィリアム・モリス☞詳しくはこちらから、ジョン・ラスキン、ウォルター・クレーンなどがおり、彼らの思想や活動がアーツ・アンド・クラフツ運動の基盤を築きました。
3.エピローグ:英国家具への招待
英国家具の歴史は、ジャコビアン様式からヴィクトリアン様式までの長い年月にわたり、美と風格が独自の進化を遂げました。
各様式は時代や文化の変遷を反映し、英国の家具職人たちが巧みな技術と芸術性をもって創り上げた傑作です。
クイーンアン様式の女性らしい気品、チッペンデール様式の多様性と洗練、そしてヴィクトリアン様式の繊細な彫刻と装飾。これらの様式は、それぞれの時代背景や社会の変遷を反映しつつ、英国の伝統と職人技の融合を見事に表現しています。
英国家具は歴史と芸術の結晶であり、その美に包まれた空間で特別な瞬間を過ごすことは、英国の家具文化への敬意と共に、真に贅沢な体験となることでしょう。メゾン・ド・マルシェで、クラシックな魅力と英国の伝統を垣間見ながら、美しい時間をお楽しみください。